TOP 食バンクマガジン 食材、器、酒蔵の魅力を日本料理で表現する。南船場で大阪料理店『食彩と縁 小森』OPEN
飲食業界のトレンド
飲食業界のトレンド
食材、器、酒蔵の魅力を日本料理で表現する。南船場で大阪料理店『食彩と縁 小森』OPEN
食材、器、酒蔵の魅力を日本料理で表現する。南船場で大阪料理店『食彩と縁 小森』OPEN
2019年3月14日
view 4957 ♥0
「京の持ち味、浪速の喰い味」という言葉がある。前者は素材本来が持つ味を主役にする、京料理のことだ。後者は素材本来が持つ味を生かしながらも奥行きのある深味をつける、大阪料理のことである。
2019年3月16日(土)、大阪中央区南船場にてオープンする『食彩と縁 小森』も、まさに大阪料理の店。泉州水なす、田辺大根、若ごぼうなど大阪産の野菜をはじめ、その日その日に市場で仕入れる旬の魚を使った一品料理を日替わりで提供する。割烹と言うとかしこまったイメージが定着しているが、客の注文を受けて作るアラカルトが中心で、気軽な料理屋である。料理人の見事な包丁さばきを見ながら気さくな会話を交わし、帰る時にふと「おいしかったなぁ」と思わせるカウンター割烹は、元々大阪で流行して広まったスタイルだそうだ。
店主を務めるのは、森 忠彦さん(45歳)。辻調理師専門学校卒業後、大阪料理の名門『淺井東迎』で20年間の修業を積んだ。また「他の料理のやり方も知っておきたい」と焼鳥店やスーパーの鮮魚売場、とにかく色々と回ったそう。「この仕事をやるからにはいつかは自分の店を。いつもそう思っていました」。名門によって鍛えられた腕で、”ほんまもんの大阪料理”を表現する。
食材の奥深さを知ってもらいたい
大阪料理に限らず日本料理の魅力と言えば、なんといっても食材の使い方。春夏秋冬、それぞれで最盛期を迎える野菜や魚を頭の中にインプットし、組み合わせるのは料理人の基礎であり、面白さでもあると森さん。
「今の季節だと筍。筍は水間産(大阪府貝塚市)が良いですね。それから、イイダコ。身に卵が詰まっているのは春だけです。卵が米粒のような形をしているから、『飯蛸』と言う。僕ら料理人にとっては知ってて当たり前のことなんですけどね、そういう食材の面白さというか、奥深さをもっと伝えていきたいと思うんです」
▲春の食材の炊き合わせ
「僕は”言葉”にも旨味があると思っていて。お客さんには料理だけじゃなく、食材の知識も提供したい」
長年のカウンター商売で身につけた話術で、森さんの話はとても歯切れが良く、食材の魅力もよく伝わる。その反面「知ってもらえるとね、嬉しくなるんです」という言葉は、ゆっくり噛みしめるように話す。料理人としての森さん、というより、ひとりの人間としての気持ちだろう。食材の知識を提供したい、というのは商売上の理由だけではないようだ。
▲お刺身は、中央市場や黒門市場で森さん自ら目利きして仕入れる鮮魚で
▲穴子の白焼き
若い作家の作品を広めたい
森さんが伝えたいのは、食材の魅力だけではない。「難波津焼(なにわづやき)」という、比較的歴史の浅い器を採用した。難波津焼は、大阪港のベイエリア開発が進む中で膨大な海底粘土が掘り出され、この粘土資源を陶土として再利用したものだ。
「難波津焼は、若い作家さんたちが丁寧に焼いてるんです。これからの時代を作る人たちの作品を見てもらいたくて。新しい器がお客さんにも広まって、ファンになってくれたら作家さんたちも喜びますよね」
▲こちらが難波津焼。料理は菜の花とホタルイカの酢味噌和え
”器は料理の着物”という言葉もあるが、難波津焼が着物なら、料理はモデルといったところ。森さんは「自分の料理をきっかけに、器のことを知ってもらいたい」とも話す。
酒蔵の熱意を伝えたい
食材の魅力、器の魅力、そして森さんはお酒の魅力についても知ってほしいそうだ。
「料理は僕がおすすめする『これ!』というものがあるけど、お酒はお客さんの好みがあるから。色々と準備しました。お客さんが一番好きなジャンルを選んでもらえたら良いかな」
ドリンクメニューには日本酒、ワイン、ビール、スパークリングワイン…と確かに色々なお酒が書き並んでいる。ただビールはキリン・サントリー・サッポロ・アサヒと4種類取り揃えているのは珍しい。それから日本酒には「みむろ杉」「喜楽長」「宝剣」…全国各地の酒蔵から取り寄せた銘酒が並ぶ。
▲ビールを4種類揃えたのは、森さんがビール党だからだそう
「酒屋さんと打ち合わせて、本当に美味しいものを選んでます。美味しさもそうだけど、なんていうか…酒蔵さんの熱意なんかを知ると応援したくなるんですよ」
たとえば「みむろ杉」なら、今西酒造。創業350年の老舗蔵だが、先代が急逝。十分な引き継ぎもできないまま、現社長は28歳という若さで歴史ある蔵を継ぐことになった。「最初は全然だめだったそうなんだけどね。数年の間にコンペとかで賞をもらうようになったって話を聞いて。すごい努力だな、と興味がわいたんです」と森さん。若い蔵元が日本酒に新しい風を吹き込もうと挑戦する姿勢に心を打たれ、店で並べることにしたそうだ。
「商売はWIN-WINじゃないといけないと思うんです。生産者さんが儲かって、作家さんの作品が世に出て、酒蔵さんの熱意が広く伝わって…関わってくれる人含めて、みんなで喜べるようにしたい。料理の裏側にあるストーリーを料理で伝えていく。それが料理人の仕事かな、と」
『食彩と縁 小森』店舗情報
住所:大阪市中央区南船場1-8-3 JMビル1階
電話番号:06-6261-7667
営業時間:18時〜翌2時
定休日:火曜日
席数:20席
客単価:約8,000円
取材・執筆:あかざしょうこ 撮影:土屋あかり