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TOP食バンクマガジン  料理人の活躍の場は飲食店だけじゃない。食卓に豊かな食生活をもたらす「出張料理人」の仕事とは?

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料理人の活躍の場は飲食店だけじゃない。食卓に豊かな食生活をもたらす「出張料理人」の仕事とは?

料理人の活躍の場は飲食店だけじゃない。食卓に豊かな食生活をもたらす「出張料理人」の仕事とは?

2019年4月26日
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「それじゃあ何を作りましょうかね」
食材を並べて言う表情が楽しそうだ。

「食の専門家」に依頼できる出張料理サービスを行う『シェアダイン』に所属する料理人・孝太郎さん。
『シェアダイン』ではサイト上で依頼、チャットにて好き嫌いやアレルギーなども含めた打ち合わせ。当日は依頼人の自宅まで赴き、冷蔵庫の中にある食材でライフスタイル、好みの味を踏まえてその家庭に合った料理を「作り置き」してくれる。品数は食材によって異なるが、時間内で12品程度ができあがる。

「イカがあるんですけど」と言えば、少しの思案のあと「じゃあ筑前煮にいれてみましょうか」と提案してくれ、中途半端に残っていた大根を手に「これも使っていいですか?」とメニューに加えてくれる。

過去には割烹料理屋、定食屋に勤務していた孝太郎さんは、どういう経緯で出張料理人として腕を振るうようになったのか。
実際に作ってもらっている様子を見させていただきながら、これまでのこと、料理との向き合い方、そしてこれからのことをお伺いした。

孝太郎さんのプロフィール

福岡県出身。18歳の時に日本料理の世界に飛び込み、料亭や割烹で修行。現在は出張料理サービス「シェアダイン」の出張料理人として活躍するかたわら、飲食店のプロデュース、東京都内で和食・土鍋の料理教室も主宰。日本料理の技法や知識などを軸に、より親しみやすい料理を日々考案している。

「写真撮られるの、慣れていないんですよね」とはにかむ孝太郎さん。料理の際はエプロンではなく調理用の白衣を着用する。見慣れた家のキッチンが一気に「厨房」と変わって新鮮だ。

まずは使える食材を全部出して、メニューを決める。

湯がいたり切ったり剥いたり、下ごしらえから。

――プロの仕事をこうして間近で見られるのって楽しいですね。

そうですね。実際仕込みのところを見る機会ってあまりないですもんね。

――出張料理人のサービスを利用されるのはどんな方が多いですか?

やっぱり忙しい方が多いですね。 共働きで子どもがまだ小さくて。土日に子どもの相手をしてあげたい。1週間分のごはんも作らなきゃいけない、とか。でも、全部やっていたら夜遅くまでかかって……というのが多いらしくて。

――確かに、作り置き料理って意外と時間もかかるし、作るだけでぐったりしてしまいます。その時間を委託できるのも助かりますが、何より、誰かが作ってくれた料理を食べられるのは主婦・主夫からすると嬉しいですよね。

作ってもらえる喜びっていうのは大きいみたいですね。 2人で外食で良いものを、と考えるとやっぱりそれなりにお金がかかってしまう。それが1週間分あって、ときどき料理屋さんで出てくるようなメニューが食べられると嬉しいですよね。

――料理のお仕事はいつからされていたんですか?

出身が福岡なんですが、高校のときから料理屋でバイトとして働いていました。大学を卒業してからも割烹料理屋で働いて……東京に出てきてからも含めると全部で8年やってましたね。でも、なんとなく違うんじゃないかと思って……。

――と言うと?

18歳のころから思っていたんですけど、やっぱり世俗離れしているな、って。
一食に2万円から3万円、高いときには5万円、ちょっといいお酒を飲んだら10万円。おいしい料理が出てくるのは当たり前だし、むしろまずいもんどうやって作るんだ、っていう感覚になってきたんですね。そこにそんなにお金をかけるのって違うんじゃないかな、って。

それで「もういいや、日本料理やめよう」と。でも、まだメシは食べていかないとダメだし…ということで、家の近くの定食屋さんで働くようになったんですけど、それがすっごくおもしろかったんです。

――おもしろさはどういうところに感じたんですか?

恵比寿のお店だったんですけど、1,000円以内で5品ぐらいつけなきゃいけない。メインがあって、ごはんとお味噌汁があって、小鉢が2つあって。それを1,000円以内におさめるんです。それからですね、家庭料理に目覚めて。
でも、そのお店がまた料理がおいしくなかったんですよね(笑)

――まずいものをどうやって作るんだ、と思っていたら、そういうお店があったわけですね。

それなら「料理は全部変えます!」って店長に言ったのが始まりでしたね。最初に変えたのがごはんでした。大きな釜でごはんを炊いていたんですけど、これが全然おいしくなかったので、土鍋で炊くことにしたんです。定食屋で土鍋で炊いてるところなんてあまりないし、とりあえずごはんだけでもおいしくしようと。

当時は2店舗しかなかったんですけど、今は8店舗ぐらいになりました。恵比寿で定食と言えば、で名前が挙がるようなお店になりましたね。

――そこから出張料理人をやろうと思ったきっかけはなんだったのでしょうか。

定食屋さんに来てくれていた人が「家では食べないのに、ここの切り干し大根なら子どもがもりもり食べてくれる」っていう話の流れから、「家に行って作りたいよね」というのを自分で言っていたみたいです。この前、当時のお客さんと会ったときに聞いたんですけど、僕自身は言ったことをすっかり忘れていて。「実際にご家庭で料理を作りたい」という気持ちはずっとあったみたいです。

――それを実現したということですね。

定食屋で働いて、家庭料理がすごく好きになったんですけど、毎日同じ空間にするっていうのが苦手だったんです。
飲食店って働く時間が長いじゃないですか。準備の時間やなんだかんだ含めると実働8時間で終わるのは難しい。料理は好きだし楽しい、という人はたくさんいるけど、やっぱり勤務時間が長い、というのが二言目に出てきて、三言目には給料が見合っていない、という話が出てきますから。そういうのは変えていかないといけないよね、という話は周りの人たちとはしています。

――出張料理を始めて料理への向き合い方に変化はありましたか?

変化ありました! すっごく勉強するようになりましたね。

――料理自体を、ですか?

そう、幅広く。

料理教室もやっているんですが、出汁の歴史とか、話すときに説得力も必要ですし。改めて勉強が足りないな、と実感しました。お店だと決まった料理を作っていれば対応できるけど、家に行って作るとなるとそうはいきません。同じ家庭に何度も行くとワンパターンになって通用しなくなりますから。

――作る幅も広がったっていうことですね。

そうですね。一回もメニューをかぶらせないっていうのが目標なので。
あとやっぱり素材の「良い」「悪い」がすごく大事なんだっていうのは思いましたね。料理屋さんだといいものを使うのって当たり前じゃないですか。良い素材でおいしい料理を作れるのは当たり前。でも、ご家庭じゃ高級食材というのは厳しいものがあります。高級食材に変身させられるわけじゃないけど、それをどんなふうに工夫をして、おいしい料理を作るかっていうのはよく考えるようになりますよね。冷蔵庫にあるものが全部新しいものとは限りませんし。下手したら冷凍された大根とにんじんしかない、なんてこともありますしね(笑)

――冷凍された大根とにんじん……だけのときはどうしたんですか?

さすがに「ちょっとこれは無理だ」って買い物に行きました(笑)


▲「イカを使ってほしい」というリクエストから筑前煮に。「お店では出ないけど家庭料理としてはアリでしょう!」

――いろんな出張先があるでしょうし、応用力が必要だということですね。このお仕事をしていてよかったな、と思うのはどういうときですか?

やっぱり反応がダイレクトなときですよね。食べたあとに連絡をくれる方が多いんです。特に、「子どもがこんなふうに食べた」とか「苦手だったものが食べられるようになった」とか、お子さんの話は嬉しいですね。

――飲食店勤務だと見られない反応ですよね。

特に夜のお店なんかだと、あまりないことなので。
やっぱり記憶に残ってるものって小さいころに食べたものなんですよね。小さいときに好きな食べ物が決まってしまう。たくさんある中の一部分にでも入れたらいいなとは思っています。

ただ、僕らがどれだけやっても母の味にはなりません。僕らの味をお母さん方に伝えたいっていう意味で料理教室も2年前からやってるんですけど。記憶に残ってる料理ってないですか? 大したことやってないのに家のカレーってうまいよな、とか。ちょっとテンション上がるごはんあるじゃないですか。

――そういえば、何故かたまにお母さんの作った焼き飯食べたいなあ、って思うことはありますね。

そうそう、そういう感じなんですよね。その記憶に残る料理が、例えば出汁がちゃんととってあるものだったら、それがその子の土台になりますから。

――これから孝太郎さんが目指すところはなんですか?

「世のため人のため」、ですかね。本当にそこですね。

――「食」は基本ですもんね。

食自体が潤っていくと、人間ってやっぱり豊かになっていくと思うし。そういった部分で自分ができる範囲でいろんなお手伝いをやっていきたいな、って思っています。

孝太郎さんが作る料理はとびきりおいしくて、心が温かくなる。自然と笑顔がこぼれるし、それが家族の「余裕」につながる。 「ひとつの家族のために料理を作る」だけじゃなく、「食卓に笑顔をもたらす」のも出張料理人・孝太郎さんの仕事なのかもしれない。

SHAREDINE(シェアダイン)
公式サイト

取材・撮影・執筆:ふくだりょうこ(@pukuryo

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